ICT活用に絶対必要なこと【その1】

最初に気づいた思ったのはもう3年くらい前だっただろうか。

ある小学校の支援員さんを訪問した日の1年生の図工の授業で、タブレットを一人一台で使用した。この自治体のタブレットにはストラップがついているので、小さいこどもでも斜めがけにして持ち歩くときに落とす心配が軽減されている。

この授業は、友だちの絵を鑑賞するものだった。

授業前に支援員さんがすべてのタブレットにワークシートを配布して、開いておいた。

この配布には授業支援システムの配布機能を利用した。

ワークシートは内田洋行の「デジタルスクールノート」を使って、非常にシンプルな、大きな四角い枠と、文字をかける罫線があり、名前を書くところがあるものだった。同じものを3ページ分配布した。

授業が始まる前に子どもたちが教室集まってきて、先生の指示のもと、先週校外学習で描いた、動物園の絵の置かれた図工用のカートを運んできた。

1年生なのでみんなとても小さいのに、協力しあって、3人で大きなカートを転がして廊下まで運んできた。

「特に先生は大きな声で指示していないのに、こんなに危なげなくこんな大きなものを運んでくるなんて、日頃からやっているのだな」と思った。

次にこどもたちは、その絵を各自自分の机に置いて席に着いた。「自分の絵をとって、机に置いたら座って待っててください」と言っただけ。最後の子がカートを少し壁に寄せた。

授業が始まり、先生が黒板に一枚サンプルの絵を貼り付けた。今日の目当てや、やることを説明している時、教室の前の電子黒板にワークシートを映したのだが、冬の昼間、低い日差しで画面が光って見づらかった。

「あーちょっとまぶしいね、見えないかな?」と先生が言うと、窓側の席の子たちが、誰からともなく立ち上がり、小さな手でカーテンを閉めた。「あー〇〇さん、△△さん、ありがとうございます!これでみんな見えるね」と先生が言った。

 

「この前みんなが描いてくれた絵を鑑賞します。ゆっくりみんなの絵を席を回って見てきてください。自分が『この絵が好きだな』『いいな』と思った絵をデジタルスクールノートのカメラで撮って、四角い枠のところに入れてください。次にペンを使って、その絵のどこが好きで、なぜ好きなのか、なぜいいと思ったのかを書いてください。ページをめくると、同じものが3ページ分あります。好きな絵を3枚決めて、同じように貼り付けて、どこが良いか書いてください。」(3年前なのでセリフはうろ覚えです)

 

ここまででまだ授業はこれからなのに、なんだか驚いてしまった。

お分りいただけただろうか。授業のための準備をこんな小さな子どもが率先してやっている。

さらに、画面が光って見えないなら、カーテンを閉めれば良いことを、理解しているのだ。

そして、指示しなくても自主的にカーテンを閉める。ここまでの時間がとても短い。

 

さて、先ほどのタブレットは支援員さんと私で運んで、教室の前のテーブルに置いておいた。

先生の説明が終わったら順番にタブレットを取りに来て、すぐにストラップを画板のように下げる。先生の指示通り、各自展示(机の上に平置き)されているお互いの絵を見て回る。「しましま模様が上手」「この目がかわいいね」などと、お互い自然に会話を交わしている。良いところを探しているので、自ずと褒められて嬉しそうだ。

 

デジタルスクールノートは、アプリのカメラを起動して、写真を撮ると、撮ったものがそのままワークシートに貼りつく。

これまではデジカメなどで撮ったとしても、パソコンのワークシートにそれを貼るには、「挿入」「画像」「ファイル選択」など手数がかかったが、これは撮るだけなので、とにかく速い。

撮った写真のサイズ変更や移動はこの年齢だともう感覚的にわかるのか、小さな指で角をドラッグして、縮め、指定された枠に入れていった。多分以前にもやったことがあるのだろう。

特に機器トラブルもなく、この学校はまだ無線が十分に整備されていなかったが、そもそもこの授業で使っているアプリはスタンドアロンで動作する。アプリを間違って閉じてしまっても、子どもたちはどこにそれがあるか知っているようで、すぐにちょんちょん、とダブルタップして元に戻した。このアプリは自動保存機能があるので、そういう部分も心配が少ない。

再起動して消えてしまう心配も、マイドキュメントとピクチャは復元除外してあるので問題ない。

 

子どもたちは思い思いに絵を撮影し、撮影時も場所を順番にゆずりあって、驚くほど短時間で作業を終えてバラバラと席について自分の感想を書き始めた。文字を書くのはペンなので手書きだが、デジタルは消すのが速い。書き直ししても汚くならない。

一通り終わったところで、先生が「それでは、自分の選んだ絵をみんなに見せて、どこが好きだったか発表してもらいます」と言うと、発表したいと言ったこの中から3名くらいの子が、前に自分のタブレットを持って出てきた。

基本的には無線を使って提示もできるのだが、ここでは、タブレットクレードル(スタンド)を電子黒板の下に設置して、そこにタブレットを置けば、有線で繋がり、画面に自動的に表示されるようにしてあった。

 

子どもはタブレットクレードルにはめ込んで、画面が大きく表示されると、ページをめくりながら、自分の選んだ絵を紹介し、「動物の模様がすごく上手だと思いました」などと自分が感じたことを発表した。

感想を一度文字にしているので、それを読み上げることでスムーズに発表が進む。

 

たった45分の授業で、これだけの活動が1年生にできるのだととても感心した。

授業の後、先生に「こんな使い方しかしてないんですけど…」と恥ずかしそうに言われたが、一番最初に私の口から出たのは「先生の学級経営が素晴らしいですね!」だった。

 

子どもたちが自らやることを理解して、率先して動く。役割を奪い合うこともなく。

これからやる授業に興味を持っている。

友達の絵を配ったり、机においたりするのも丁寧だ。そう教わっているのだと思う。

タブレットは配られたら落とさないようにたすき掛けにする。狭い席の間をすれ違うのも、譲り合う。タブレットが当たらないように両手で抱えて動く。理にかなった安全を守ることや、不快に感じるかもしれないことを理解してやらない、改善することがわかっているようだった。

 

使い方だってすごい。たった45分なのに。

絵を生で見る。写真を撮ることで、それが瞬時に手に入る。

先に全部写真にしてしまうと、まとめて鑑賞したりできるが、やはり紙の質感や絵の具の色あいは損なわれたりする。個人的に、絵は生で見ることが必要だ。

生で見ることで感覚的なことはそこで獲得するが、その記憶を持って自分で写真を撮ることでずっとイメージが残りやすいと思う。

 

そして、決められた枠に入れる操作がスムーズなのは、普段からこまめに使っている証だ。

おそらくこれまでにほかの活動でも写真を撮ってワークシートに貼ることはしていたと思う。使い慣れている単純なツールでコンピュータの基本操作を理解している。

 

さらに自分の意見を文字に書く。

この絵の、どの部分が、どんな風に良いと思うか。先生が最初に例を示して、サンプル画像を

見せて、書き方を教えていた。

書いたことを発表するので、迷いがない。

書くのは褒め言葉なので、発表もしやすい。

あとでこのワークシートを授業支援システムの回収可能で集めておくのは支援員さんの仕事だ。先生はそのシートをあとで確認して、一人一人の評価もできる。

 

この授業がすごく良いと感じて自分の会社に取材してもらい、事例としてカタログにも掲載されたのだが、この時はまだ漠然と「良い」と思っていた。

しかし、今はっきり思うのは、まず「学級経営」そして、「授業のための技術」が素晴らしいからこそ、この活用があるということだ。決して私立の特別な学校ではない。ごくごく一般的な、公立小学校だ。そして、これをやっているのは、決してICTに詳しい先生ではない、中堅の女性の先生だ。ふだん情報担当もしていない。

 

支援としてこちらが受け持ったのは、

タブレットなどの運搬

教材になるワークシートの作成(単純なもの)

事前の配布

授業後の回収

 

これだけだ。

操作にいちいち手がかかることもなかった。

途中シャットダウンしてしまった子をサポートしたくらいだ。

先生がやりたいことが明確で、その目的を支援員さんがきちんと理解したからできたと思う。

もちろんこの後集めたデータをどうするのかなどはあるが、少なくともこの授業をアナログでやろうとしたらどうだろうかと考えて欲しい。

 

ICT活用は、教育技術があってこそ、学級経営があってこそだと思うきっかけになったのがこれだった。

 

つづく