研修のいらないICT活用?

「先生は多忙だ」

「研修会なんて受ける時間は取れない」 

「そんな忙しい先生のために、直感的に使えるものを」

この前のブログでも書いたけれど、私は研修会講師をしたり、研修会自体をコーディネートすることが多いが、「研修」が単なる「操作方法」や「運用ルール」の説明なら、「研修が必要ない」という考え方になっていくのは当然かと思う。そのくらい教育系ソフトや機器は私からみると「使いやすさ」に拘っているなーと思う。
しかし、しかしだ。私が思うのは、各メーカーさんにわかってほしいのは、機器もソフトも「すでに今迄使ってた人たちにとって」簡単にわかりやすくなっているだけのものが多いことだ。
すでに一定のリテラシーがあるから「便利」「わかりやすい」となっていること。作る側もアドバイスしているユーザーも使い慣れた人間だったりする。できる人同士が、お互い必死で高め合って一般が届かないはるか高い所に上り詰めてしまった、究極の「使いやすさ」「便利さ」になっていないだろうか。「直感的」って何だろう。それは「ICTリテラシーの高いあなた」にとっての「直感」ではないのか。
私は、必ずしも潤沢でない予算の中で、また、普段からスマホにもタブレットにも触れず、インターネットもメールくらいしかあまり使わない、でも先生としてたくさんの良い授業をされている、そんな人たちにお話をすることがあり、その度に自分の思い違いを認識する。その度に離れかけた地面に足を着け直すのだ。

ふぅーあぶないあぶない、また天に昇ってしまうところだったと正気に戻るのだ。

キラキラと輝く文教ICT業界を見ながら、研修のために現場におもむくと、そこにある現実はすごくすごく遠いところにある。

 

ところで今迄私が携わってきた学校向け「研修会」としては、以下のようなものが比較的多い。

⚫︎ICT機器の導入
⚫︎ICT機器の活用
⚫︎Office(初級〜中級)
⚫︎Adobe(PhotoshopIllustrator他)
⚫︎ホームページ関連のソフトウェアや各種CMS
⚫︎授業で使用する各種学習支援ソフトウェア
⚫︎校務支援システム(コミュニケーションツールや成績処理システムなど含む)
⚫︎情報モラル(私たちは情報安全と呼んでいます)
⚫︎プレゼンテーションスキル(テーマの決め方から調べ方、資料の作成、発表、聴き方、質問の仕方など)
この中で、実は情報モラルとプレゼンテーション以外の、ソフトウエアやハードについての研修のはその内容を講師がどのように理解しているかで、同じ名前の研修会でも、実施する意味が大きく異なる。

どれも操作の仕方はどんどん簡単になり、チュートリアルやヘルプがお節介なくらい出てきて、マニュアルだってサポートだってある。


研修というと、よくあるのは、メーカーの説明員がやってきて、使い方を流暢にしゃべり、その時一緒に操作についていけると、何だか楽しさとともに、できた感があって、特に文句も質問もなくおもしろかった!という満足感とともに笑顔で終わる研修だ。


かつては私も50人くらいの受講者が、全員まるで遠隔操作ができるかのように、ソフトを迷わず操作してゴールにたどり着くことに快感を覚えて、そこに力を注いでいた時期があった。

それはそれで今も役立つスキルではあるが、しかしそんな研修なら、いずれそれはペッパー君がやってくれるだろう。

 

数年前に、あるインストラクターを投入した学校から、クレームが来たことがあった。そのインストラクターはまだ確かに経験は浅かったが、説明は下手ではなく、事前に何度も練習をしていたまじめな人だった。
しかし、ひどく強いクレームだったので、改めてそれはなぜなのかを調査した。

すると、実は他の学校でも違うインストラクターが入っていたのに、同じようなお困りが多かれ少なかれあることがわかった。
それは、「操作の仕方はわかったが、で、私たちはこれから何をすれば良いのかわからない」ということだった。つまり、操作はわかっても、「運用方法」が業務に直結せず、なにから始めて良いかわからないのだ。


今まで似たようなものを使っていた先生が管理職だった学校は、特にクレームもなく、しかし手探りで運用を開始していた。

クレームの原因は、研修の際に、「お客様が実際に使うとしたら」必要になる情報がまるでなかったのだ。今も私が研修会に力を入れるのは、どんな便利なものであっても、個別の事情に合わせた情報提供が必要だと思うからだ。

今まで使い慣れていたシステムやソフトが、新しいものに変わった時、その人が必要な情報はなんだろう。
その人は、そのソフトを使うことが仕事ではない。そのソフトを使ってどんな業務をこなしたいのか、それを踏まえて話をするのが人間にできる研修なのではないか。(そんなことすら、いずれロボットができるようになるのかも知れないけれど)そして、私がインストラクターとテキストを作った人に指示をしたのは、お客様が以前使っていた、使い慣れた他社システムのことも知り、今までの運用が、新しいシステムに変わることによって、どう変わるのか、その変化が対比できるような図を描けというものだった。

つまり業務の本質的な流れや人の動きは変わらないなら、それを中心にお話をしなくては、伝わらないということだ。

今のタブレットやプロジェクター、電子黒板などの活用も、素晴らしい授業をされる先生は、その授業の中身自体にICTの出番がないことも多く、だからこそ、こちらがそこにどうフィットさせ、今のお困りを発見し、解決するかに言及できないと、単なる負担にしかならないのだと思う。
「困ってない」そういう人もいるだろう。今まで通りならそりゃあもう困っていない。

へたなICTなぞ余計なお世話だ。
そこで私がいつも提案するのは、「時間を増やす」ことだ。そして、もう一つは「情報を活用する」こと。これはICTがとても得意とすることでもあり、人間がなかなかできないことだと思う。先生の授業は確立しているなら、素人の余計なお節介は不要に感じるだろう。私たちが支えるのは、その授業をより多くの子供に届けたり、より効率よく情報伝達をする手伝いなのだ。

具体的に例をあげるなら、手作業でやるよりデジタルでやったほうが速いことを探す。

それに置き換えることをイメージして、実際どのくらいの時間短縮になるかを見積もる。

そうしてできる時間をたくさん作れば、45分間の限られた授業の中で、子供が考えたり、発言したり、話し合ったり、調べたりする、子供が自発的に行う活動の時間を増やしていくことができると思うのだ。

また、校務では、より早く、快適に事務作業を進める方法知り、スキルを培っていただくことで、できた時間を追い詰められている先生方が、ほっと一杯コーヒーを飲んで、好きな音楽を聴く時間にあててもらいたい。

そこでさらに仕事を増やしてはだめだと思うので、本音を言うなら、作った時間を正しく使うこともアドバイスしたい。

 

夢のような機器やシステムが発明されていく中で、初めてでも使える物が、導入された時、必要なのは、そのユーザーの環境がこれからどう変わるのか、普段の業務がどう変わるのかを説明でき、個々のお困りや見えない改善点を見つけ、それをどう実現するのかをイメージさせることができる「人」なのだと思う。

そう言ったことをイメージさせる研修は「要らない研修」ではないのだと思っている。